先日、モデルナワクチンの副反応で心筋炎のデータが集まっているというニュースを見ました。2021年10月15日開催の第70回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会で議論されたようです。
ワクチンの副反応の情報はとても大事ですが、どのくらいの頻度で発生するのか、どの対象(年齢・性別)で発生しやすいのか、どんな症状に気を付ければいいのかを知ってから対応することが重要です。
今回、10月15日のワクチン分科会の資料(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000844075.pdf)をもとにワクチン接種と心筋炎について調べてみたので紹介します。
心筋炎の概要と一般的な経過や治療、予後の概要
心筋炎は軽症例の確定診断が困難とされているため、疫学情報の捕捉が難しいそうです。循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年改訂版)の抜粋が掲載されていました。
ワクチン接種者向けの資料には、次のように記載されています。
ワクチン接種後4日程度の間に胸の痛み、動悸(どうき)、息切れ、むくみなどの症状がみられた場合は、速やかに医療機関を受診して、ワクチンを受けたことを伝えてください。
○こうした症状は、心筋炎、心膜炎の典型的な症状です。ただし、そのほかの原因でもこれらの症状となることがあります。医師の診察を受けましょう。
○心筋炎・心膜炎としんだんされた場合は、一般的には入院が必要となりますが、多くは安静によって自然回復します。
若年男性及び保護者の方へのリーフレットより抜粋
各種新型コロナワクチンの接種と心筋炎関連事象(心筋炎・心膜炎)の発生頻度
新型コロナワクチン接種後の心筋炎関連事象(心筋炎・心膜炎)に疑いとして、ファイザー社とモデルナ社のワクチンで報告がありました。アストラゼネカ社のワクチンでは現時点で報告はありません。
- ファイザー社ワクチン:160例の報告、20歳代男性の報告頻度が多い傾向
- モデルナ社ワクチン :93例の報告、10歳代及び20歳代男性の報告頻度が多かった
アストラゼネカ社ワクチンで報告がないことの要因として、ワクチン接種を受けたのが中高年層に多く、ファイザー社ワクチンやモデルナ社ワクチンの接種人数の母数の差が大きいため、その影響も考えられます。
資料にあった接種と心筋炎関連事象疑いの表は次の通りです。
心筋炎の報告が多いのは、ファイザー社ワクチンでは20歳代男性で、モデルナ社ワクチンでは10歳代男性と20歳代男性のようです。また、100万回あたりので比較すると、ファイザー社ワクチンとモデルナ社ワクチンでは、モデルナ社ワクチンを接種後の心筋炎関連事象疑いの発生は2倍以上のようです。
女性はファイザー社ワクチン、モデルナ社ワクチンいずれも発生例が少なく、他の年齢とも差がありません。
なぜ女性の方が少ないのか、高齢者より若年者が多いのかという疑問について、同じ資料内に日本循環器病学会の参考人提出資料に次のような記載がありました。
【新型コロナワクチンに伴う心筋炎】
・コロナワクチン接種後数日後に心筋炎を発症し、特に若い男性に多い報告が本邦を含めされている。
・機序は不明だが、ワクチン接種による発熱等の全身の炎症や免疫反応の不活化により、心筋の炎症が惹起されることも考えられるが今後の解明が必要である。
・若年男性にワクチン接種後の心筋炎発症が多いことに関しては、女性では抗炎症作用を有するエストラジオールが血中レベルで高く心筋炎発症が抑制されていることも感がられる。一般的に心筋梗塞や心不全、心筋炎等の心血管病の発症が若年女性で少ないことと同じ機序と推察される。高齢者より若い世代で多いのはワクチン接種による発熱等の副反応の差と同じ理由と考えられる。
・ワクチン接種後の心筋炎発症の機序はいまだ不明であり、因果関係も含めて今後の検証が重要である。
【まとめ】
・コロナ禍で心不全、不整脈や冠動脈疾患の診断と管理が重要であるので若年者であっても胸部症状があれば精査と加療の継続が必要である。
・ワクチン接種後の心筋炎や心不全発症率や突然死の頻度より、COVID-19感染後のそれらの発症頻度と重症度は高い。
・医学的見地から心血管合併症の発症と重症化予防と死亡率の減少を図る観点からもワクチン接種は有効であると考える。
・コロナ禍の中でもワクチン接種に関わらず、突然死のリスクである心血管病を早期発見するために、胸部症状の出現や心血管疾患が疑われる際には速やかに近医を受診し、精査することが重要である。
厚生労働省 2021年10月15日開催の第70回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料より抜粋
今回の心筋炎の報告から、ワクチン接種後の心筋炎関連事象疑いの副反応については、10歳代から20歳代の若年層の男性、とくにモデルナ社ワクチン接種後で注意が必要なことがうかがえます。
COVID-19感染の心筋炎とワクチン接種後の心筋炎の比較
ここで気になってくるのが、ワクチン接種後に心筋炎って副反応がでるのなら、ワクチンを打たない方がいいのではないか、という意見がでてくることです。
新型コロナウイルス感染症に伴い、心筋炎が発症することがあります。
COVID-19感染症に伴う心筋炎とmRNAワクチン接種後の発症疑い報告で心筋炎の発症頻度を比較したグラフがありました。
この資料を見る限り、ワクチン接種後の心筋炎の副反応の発生頻度より、COVID-19感染に伴う心筋炎の発症頻度のほうが高いことがわかります。
また、一般社団法人日本循環器学会がワクチン分科会に提出した資料((https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000796566.pdf)には学会の見地と対応として次のように記載されています。
・ 急性心筋炎・心膜炎が新型コロナワクチン接種後に発症する頻度は極めて稀
一般社団法人日本循環器学会提出資料(第62回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第11回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会)より抜粋
・ 新型コロナワクチン接種後の急性心筋炎・心膜炎は軽症が主体
・ 若年者では新型コロナウイルス感染による無症状の急性心筋炎・心膜炎発症の可能性がある
・ 新型コロナワクチン接種により感染・重症化予防を図るメリットの方が、新型コロナワクチン接種後の急性心筋炎・心膜炎に対する懸念よりも圧倒的に大きい
・ 日本循環器学会としては、新型コロナワクチン接種後に発症することが懸念されている軽度の心筋炎・心膜炎は、現在のワクチン接種体制および通常の循環器診療体制で対応可能と考える
これらの情報から、ワクチン接種後の心筋炎については注意する必要があるが、ワクチン接種のメリットの方が圧倒的に大きく、ワクチン接種を非奨励するほどではないと考えられます。
ワクチン接種後の心筋炎事象に関する論点のまとめ
審議会資料では論点のまとめとして次のように記載がありました。
○ 心筋炎関連事象については、いずれのワクチンにおいても、COVID-19感染症による発生率と比較して、ワクチン接種によるベネフィットがリスクを上回ると評価でき、全年代において、ワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められないと考えてよいか。
厚生労働省 2021年10月15日開催の第70回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料より抜粋
○ ただし、10歳代及び20歳代の男性については、ファイザー社ワクチンに比べて、モデルナ社ワクチン接種後の心筋炎関連事象が疑われる報告頻度が明らかに高いことから、ファイザー社ワクチンの接種を推奨することとしてはどうか。なお、本人がモデルナ社ワクチンの接種を希望する場合は、COVID-19感染症に合併する心筋炎関連事象の発生頻度よりは低いことから、接種可能のままとしてはどうか。
○ これまでの報告事例によると、心筋炎関連事象はワクチン接種後4日程度の間に、胸痛や息切れが出現していることから、こうした症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診するよう引き続きWebサイト(Q&A)等において注意
喚起を行うこととしてはどうか。
○ また、10歳代及び20歳代の男性が、適切な情報に基づいて、ワクチンの選択ができるように、十分な情報提供を行うこととしてはどうか。
○ 国内外における副反応疑い報告の状況やその解析結果等を踏まえ、コミナティ筋注及びモデルナ筋注の添付文書を改訂し、若年男性に係る心筋炎関連事象の報告頻度が高いことについて注意喚起を行ってはどうか。
○ 引き続き、国内の接種状況を踏まえつつ、国内の心筋炎関連事象疑い報告の状況や海外における報告状況を注視していくとともに、最新の情報の周知及び注意喚起を行っていくこととしてはどうか。
添付文書の改定案は次の通りです。
まとめ
ワクチン接種後の副反応としての心筋炎は、若年男性(10歳代、20歳代)での報告が他の年代より多く、またファイザー社ワクチンよりモデルナ社ワクチン接種後の発症率の方が高いというデータがあります。
ワクチン接種後の心筋炎関連事象疑いの頻度はCOVID-19感染時の心筋炎の発症頻度より少なく、また軽症が主体のようです。
ワクチンのベネフィットはリスクより大きく、若年男性のワクチンの接種については、ファイザー社ワクチンの接種が推奨されています。
同じmRNAワクチンでも集積されたデータから副反応の頻度が異なることが分かりました。これらの情報をもとに自分で接種するワクチンを選べることは副反応回避のためにも重要だと思います。
追加接種についても検討されているため、今後も情報を収集していきたいと思います。
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